2022.08.08
執筆:物流・ITライター 坂田 良平
前編では、電話とファックス(紙書類)に忙殺される、アナログな運行管理現場のカオスっぷりをご紹介した。
少子高齢化が進行し、労働可能人口の減少が避けられない日本社会において、非効率な業務を野放しにしておくことは、企業、ひいては業界の存続にも関わる危機である。
だからこそ、運送ビジネスを疲弊させてきた運送管理業務の省力化や生産性向上が必須であり、そのためにTMSに注目が集まっているのだが…
一方で、デジタル化に着手せず、業務のアナログ状態を放置していると、大切なものを見落とし、経営判断をしくじる危険性もある。
事故を多発させる協力会社
ある荷主企業(以下、A社とする)に請われ、筆者は協力会社を集めた安全会議にオブザーバーとして出席したことがあった。
安全会議では、ある運送会社(以下、B社とする)が集中砲火を浴びていた。報告では、B社は毎月のように商品破損事故や、遅配、誤配を発生させているとある。
「かわいそうですが、事故を一向に減らせないので、毎回B社が矢面に立たされる結果となるんですよ」、A社の役員はつぶやいた。
気になったのは、B社が事故を多発させる理由だった。そこで、私はB社に対する運行指示書や、運転日報をチェックした。
- 他の協力会社に比べ、スポット案件の配送が異常に多い。
- 手積み手卸し、時間指定などの付帯条件付き案件も多い。
- 他協力会社に比べて運行指示書をB社に流すタイミング(※案件確定のタイミング)が数時間遅い。
「もしかして、B社には他の協力会社が断ったような、面倒な案件を流していませんか?」、筆者はA社の配車担当者に尋ねた。配車担当者は当初否定したが、追求すると図星であることを認めた。
このような事実を、A社の役員は知らなかった(所長らは気がついてはいたものの、黙認していたらしい)。
感情起因ではなく、指標(KPI)に基づく定量的判断を行うことの重要性
A社では、事業部、営業所単位でのざっくりとした損益計算は行っていたものの、車両別、車格別、協力会社別、荷主別、案件別などの細かな損益計算を行っていなかった。どんぶりで入出金を管理していたため、細かな損益管理ができなかったのだ。
手間はかかったものの、細かく損益計算を行ったところ、B社担当の配送案件における利益率が高いことが判明した。時間指定料金、手積み手卸し料金などのオプション料金を徴収し、かつ商品事故が発生したら弁済金はすべてB社負担だったのだから、当然である。
案件ごとの難易度を負荷パラメーターの形で設定し、A社への貢献度を定量的に評価していたら、やはりB社の評価は高くなっていたかもしれない。
事故は駄目である。運送を生業とする者にとって、事故を容認することはできない。だが、事故原因の一端は、A社にもあったのだ。
にも関わらず、「事故ばっかり起こしやがって…!」というA社関係者の感情論が先行していたことで、B社に対する評価が歪められていた。
「我が国企業は、物流を単なるコストセンターとみなし、戦略の一つとして重視しない傾向」──これは、経済産業省が発表した資料中の指摘である。残念ながら、多くの荷主企業や親請けは、物流改善とは名ばかりの、運賃の買い叩きや、サービス労働(手積み手卸しや時間指定など)を一方的に物流企業に要求することで、改善と称してきた。本当の意味での改善を、長年ないがしろにしてきたのだ。
A社におけるB社に対する仕打ちは、こういった悪しき習慣の延長線上にある。科学的な分析を行わず、すべての責任をB社のものとし、罵倒してきたA社の行為は、恥ずべきものだ。
動態管理をテーマにした「動態管理データは宝の山、その発掘方法を考える」でも指摘したとおり、荷主は、現場からの距離がある分、物流の実務を担う運送会社や倉庫会社の課題や悩み、不満を把握することが難しい。これは、荷主企業内における、物流部門と、営業、製造等の他部門との関係性でも同様である。
そして、運送会社や倉庫会社では、本当の意味での物流改善を担うことは難しい。運送会社・倉庫会社は、荷主の描いた絵図の範疇で、実務を遂行する受け身の立場にあり、物流ビジネス全体のデザインを描くことができるのは、あくまで荷主だからである。
だからこそ、荷主は、物流ビジネスの要所にKPIを設定し、健全な業務遂行が行われているかどうかを常に監視しなければならない。
余談だが、その後、B社はA社の仕事を辞めたらしい。
当然だろう。正しい評価を行ってもらえず、罵倒され続けたらやる気も失い、バカバカしくなるはずだ。
これだけトラックドライバーの人材不足が問題になる中、新たな協力会社を探すのも簡単ではない。A社はB社の離反を悔いたらしいが、それも後の祭りである。
「あなたの」理想のTMSを求める上で必要なこと
前後編を通して、今求められるTMSには、二つの視点(機能)が求められることを申し上げた。
- 煩雑な運送管理業務をデジタル化し、省力化を実現するものや、協力会社や荷主の間で取り交わされる依頼・受注・請求などのやり取りを担うEDI機能を備えたもの。
- 運送ビジネスにおけるKPIを取得し、定量判断に基づく経営判断の材料とできるもの。
前述のとおり、2020年を前後して、このようなコンセプトを目指すパッケージTMSが複数登場してきた。だが、こう言っては失礼なのだが、真打ちはまだ登場していないと、私は感じている。
これは、TMSを提供するソリューションベンダー側の問題だけではない。業界標準が定まっていないことも、原因である。例えば、国土交通省は物流業務におけるKPI案を出しているものの、その取り組み姿勢は優柔不断だし、業界標準を創り上げようという気概も感じられない。
EDIに関しては、その性質上間違いなく標準規格化が必要だが、これも民間団体の努力に丸投げしている状態にある。
こういう状況では、パッケージソリューションでは飽き足らず、フルスクラッチでTMSを構築しようと考える企業もいるだろう。だが、一方で、フルスクラッチ開発は、時間もかかれば費用も高くなりがちである。
そこで、注目されるのが、構造計画研究所の「セミパッケージ+カスタマイズ」である。
「セミパッケージ+カスタマイズ」の詳細は、こちらの記事に詳しいので参考にして欲しい。
物流を科学的に考えるという点に関し、構造計画研究所はおせっかいなくらいに真摯である。既存のパッケージTMSに飽き足らない企業は、相談してみるのも良いだろう。
筆者は仕事柄、運送会社、倉庫会社、もしくは荷主の事務所にお邪魔することが多い。
事務所内の人が電話をしていると、職業柄、ついその内容に耳が行ってしまうのだが…
「○○さん、いらっしゃいますか?」
「離席中です」
「そうですか…、ではまた電話します」
やりとりとしては、10数秒である。
だが、この10数秒間のムダが、積もり積もってどれほど運送管理業務を疲弊させているかを考えると、ゾッとする。
大げさに聞こえるかもしれないが、物流に関わるすべての人が、このような不毛で非生産的なやり取りから脱却しないと、現在言われている物流危機の解消は難しい。
だからこそ今、運送管理業務をデジタル化する必要があるのだ。
本稿を読み、「それはウチのことだなぁ…」と感じた物流関係者の皆さまも少なくないのではないか。
心当たりの方は、TMSについて情報収集を始めることをおすすめしたい。