特殊条件に悩む、運送会社の勤務シフト事情

特殊条件に悩む、運送会社の勤務シフト事情

【勤務シフトソリューションの課題 前編】

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

 拙稿「『運送会社に配車を任せてはいられない!?』、荷主ための配車システムとは?(前・後編)」において、「配車の三要素は、ルート、積み付け、コンプライアンス(勤務シフト)」だと述べた。
 筆者はかつて配車システムの営業として活動していた。当時、面談を行った運送会社、倉庫会社、荷主企業などは、3000社以上にのぼる。だが、配車の悩みは、ルートと積み付けに集中しており、勤務シフトに悩みを抱えている会社はとても少なかった。ちゃんと数えてはいないが、片手ほどしかいなかったはずだ。

 だが、勤務シフトに課題を抱える運送会社の悩みは、いずれもとても深く、容易に解決可能なものではなかったと記憶している

 勤務シフト計画立案をサポートするソリューションはいくつもある。あるが、その多くはごく一般的な条件しか考慮できず、本稿で紹介するような、より特殊な条件、よりセンシティブな事情を勘案しつつ、勤務シフトの計画立案を自動化できるソリューションは限られている。

 本稿では前後編に分け、さまざまな事情を考慮した勤務シフトを計画立案しなければならない運送会社や荷主企業の事情を紹介しながら、構造計画研究所が提供する勤務シフトソリューションの強みを検証していこう。

パートタイマーの複雑な勤務希望実現が鍵となる、処方せん薬配送のケース

 ある運送会社(A社とする)の配車担当者は戸惑っていた。
 断れない筋から依頼された運送案件が、少々特殊だったからである。

 配送する貨物は処方せん薬であり、配送先は処方せん薬局と病院であった。「配送案件の内容を聞かされたときには、『これはうちのトラックドライバーでは難しい』と思いましたよ」と、配車担当者は当時を振り返る。

 難しい理由は、いくつかある。

  • 処方せん薬という、取り扱いの難しい貨物であること。
  • 特に病院の場合、配送可能時間が限定されるケースが多く、時間帯によって波動の差が大きいこと。

 悩んだ配車担当者が、社長に相談したところ、「自社の社員ドライバーを使うのではなく、パート、特に子育て世代のママたちを中心に募集し、配送もワンボックス車で行おう」と提言された。

 結果から言うと、これが大正解だった。
 食品原料などを運んできた同社ドライバーの感覚からすれば、小さくて繊細で高価な処方せん薬は「取り扱いの難しい貨物」だったが、最初から処方せん薬を取り扱うことを教育されたパートたちには問題ではなかった。

 子育て世代のママたちを中心にパート募集を行ったのも功を奏した。
 病院では、午前と午後の診療の合間に配送を希望するケースも少なくない。つまり、12:00~16:00くらいに配送の波動が集中することになる。
 一方で、パート募集には、育児の合間、例えば子どもが保育園に通っている数時間だけ働きたいと考えている子育てママが多く集まった。

 短時間勤務を希望するパートドライバーを組み合わせれば、時間によって波動が大きい配送にも対応が可能となる。フルタイムで働かなければならない社員ドライバーでは、こうはいかない。

 「問題は、勤務シフトなんですよ」

 女性でも運転がしやすいワンボックスタイプのオートマ車を使い、処方せん薬の効率的な配送を実現したA社は、荷主から配送エリアの拡大、新営業所の出店を要請された。だが、それぞれ異なるパートたちの希望勤務時間・曜日や、子どもの急病などによる急な休みなどを勘案しつつ、最適な勤務シフトを組むのは相当に難しい。

 「正社員ドライバーだけを対象とした配車計画立案とは、まるで違う考え方が必要となります。今、パートたちの勤務シフトを組むことができるのは、私だけでして…」、勤務シフトの立案をどのように行うのかが、A社における業務拡大のボトルネックとなっている。

車両・出禁・軒先情報、複雑なマッチングが求められる、店舗配送のケース

 別の運送会社(B社とする)のケースをご紹介しよう。

 B社では、ある日用雑貨メーカー(メーカーCとする)の配送を担っていた。メーカーCの店舗は大手ショッピングモール内に出店しているケースが多い。しかも、配送先の店舗は都度変わる。商品発注は、基本店舗在庫が少なくなってから行われる。よって日々配送する店舗が変わるからである。

 B社が担当するメーカーCの店舗は、約100店舗。この中から、日々配送する店舗が変わるため、固定ルートを組むことができなかった。さらに、配車計画立案を複雑にしているのが、車両、出禁、軒先情報であった。

  • ショッピングモールによって、配送可能な車両が、ワンボックス、2トンショートトラック、2トンロングトラック、4トントラックなどと異なっている。
  • 残念なことに、一部のドライバーが接客態度の不備から出入り禁止を申し渡されている。
  • ショッピングモールや店舗によって、納品条件は異なる。例えば、「中野店では着車10分前に電話する」「練馬店ではショッピングモールにある共同バックヤードに納品する」といった具合である。このような軒先情報は、ドライバーによって把握している店舗が異なっており、初めての店舗(=軒先情報を知らない店舗)に行く場合には、既に軒先情報を知るドライバーが同道するルールとなっている。

 先に挙げた配車三要素のうち、ルートと積み付けは、さして難しくなかった。
 配車担当者は各店舗の立地は十分に把握しており、ルート立案には手慣れていた。積み付けは、かご台車での納品のため、積載可能かどうかの判断も簡単だったからだ。

 難しいのは、ドライバーの勤務シフトであった。
 ルートを決め、トラックを割り当てた後で、そのルート(店舗)およびトラックにマッチするドライバーをアサインしなければならない。だが、適当なドライバーがアサインできず、再びルート決定、トラックのアサインを計画し直すケースも間々発生していた。
 勤務シフトを組む難しさゆえ、B社ではあらかじめドライバーの休日をスケジュールすることができなかった。組んだ配車に勤務シフトをマッチングさせて、初めて出勤するドライバー、休むドライバーが分かるのだ。

 B社の配送は、365日行われる。
 「この間、ドライバーの○○君、彼女と別れたんですって。休日が合わないことに、彼女が怒っちゃったらしいですよ」──あるドライバーから、こんな話を聞いた配車担当者は、文字通り冷や汗をかいたという。「このままだと○○君は、うちを辞めてしまうかもしれない。そもそも、こんな状況をドライバーに強い続けてはならない」と、危機感を感じたそうだ。

 手作業で配車・勤務シフトの立案を行う限り、この状況をクリアすることはできないと、B社配車担当者は考えている。メーカーCからの配送依頼は、前々日夕方締め切りに変更してもらったが、それでも配車・勤務シフトの立案には丸一日かかり、ドライバーの出勤・休みが決まるのは、前日夕方になってしまう。
 「もし、前々日夕方の時点で、すぐ配車・勤務シフトを決定することができれば、現状を変えることができるはずです。
 一日余裕があれば、例えば不足する配送を協力会社に依頼するなどの手配をすることが可能となりますから。
 そうすれば、いずれは月単位であらかじめ休日予定を明らかにできる勤務シフトを組めるようになるのですが…」と配車担当者は悩んでいる。

既存の勤務シフトソリューションでは解決が図れない悩み

 勤務シフトに対する感度は、運送会社によって異なる。
 例えば、6:00出勤、16:00退社で、月曜から金曜出社と決まっている運送会社の配車担当者は、勤務シフトに悩むケースはないだろう。

 率直、ここに挙げたA社、B社のようなケースは、それほど多くはないだろう。多くはないが、A社、B社のように勤務シフト立案に悩んでいる運送会社は、間違いなく存在する。
 悩ましいのは、トラックドライバーや倉庫作業員などの勤務シフト立案にフォーカスした勤務シフト計画立案ソリューションが数少ないことだ。あくまで筆者の肌感覚ではあるが、勤務シフトに悩む物流企業の多くは、小売店や飲食店向けの勤務シフトアプリか、もしくはExcelを用いて、お茶を濁しているケースが多いように思う。とは言え、用途が違う上、その会社の特殊事情に応じた条件設定ができないケースも多く、結果、手作業の勤務シフト計画立案と比べて、さほど効率化が図れていないケースも少なくない。

 勤務シフトには、もっと別の課題もある。
 「あいつは私よりも楽をしている」といった、同僚の勤務シフトを妬む気持ちは、職場の人間関係を悪化させ、会社に対する信頼感、働きがいなどを奪うネガティブな感情を生みかねない。

 後編では、倉庫作業員、そして荷主企業におけるケースを挙げながら、勤務シフトが従業員にもたらすメンタリティの課題を論じたい。