従業員のメンタリティに悩む、荷主企業の勤務シフト事情

従業員のメンタリティに悩む、荷主企業の勤務シフト事情

【勤務シフトソリューションの課題 後編】

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

 「スーパーマーケットの店長たるもの、正社員のみならず、パート・アルバイトも含め、もし与えられたシフトで出勤できない日・時間がある場合には、自ら代理出勤者を探す義務があると知らしめなければならない」──これは2013年に発行された食品スーパー向けの業界誌にあった、あるコンサルタントの言葉である。

 まるで、「働かせてやっているんだから、勤務シフトに不平不満を言うなんてとんでもないことだ!」と言わんばかりの説法である。どの業界も人手不足の今、これをやったら炎上するのではないか。

 働く当人たちにとって、勤務シフトは大切だ。「あいつは、いつも楽なシフトを組んでもらって…」「私はきついシフトばかりで、休みの希望も通らない」、こういった不平不満が溜まれれば、職場の雰囲気も悪くなるだろう。

 後編では、働く人たちのメンタリティの観点から、適切な勤務シフトを組むことの重要性と難しさを考えていこう。

浮き彫りとなった夜勤勤務者の不平と不満

 筆者はかつて、ある商社(以下、D社とする)から依頼され、D社の物流センターで働く倉庫作業員のメンタリティ診断を行ったことがある。

 D社物流センターで働く倉庫作業員は、約70名であった。
 24時間365日稼働のD社物流センターでは、7:00~15:00を基本勤務時間とする日勤、15:00~23:00を基本勤務時間とする夕勤、22:00~翌6:00を基本勤務時間とする夜勤の3交代制をしいていた。
 日勤、夕勤、夜勤の間でのシフト交代は、大原則として年一回の人事異動の際にしか行われなかった。長い人では、10年以上、同じ勤務帯で働いている人もいた。

 D社は全従業員数が5000名を超える大企業である。そのうち、夕勤および夜勤勤務者は30名ほどしかいない。そもそも、商社であるD社で働く従業員の9割以上が、事務職、営業職、総務職などに従事するホワイトワーカーであり、物流部門で働くブルーワーカーはごくわずかであった。
 そのため、D社の就業規則、もっと言えば企業文化が、ホワイトワーカーを対象として成立しており、特に夕勤、夜勤といった働き方に対する配慮は不十分であった。D社幹部は、少数派である物流部門に従事するブルーワーカー、そしてさらに限られた存在である夕勤・夜勤勤務者のメンタリティを憂い、筆者にメンタリティ診断を依頼してきたのだ。

 D社物流センターで働く倉庫作業員約70名全員と、筆者はメンタリティ診断テストと面談を行った。その結果が以下である。

  1. 夜勤勤務者、夕勤勤務者は、日勤勤務者と比べ、「自分たちは恵まれていない」と感じている。
  2. 日勤勤務者は、夜勤、夕勤の仕事に比べ、自分たちの仕事のほうがキツイと感じている。
  3. 日勤勤務者は、前日にならないと休みが判明しない自分たちの状況を、自分たち以外のすべてのD社従業員(夜勤、夕勤を含む)と比べ、理不尽でしいたげられていると感じている。

 補足しよう。
 1.については、例えば社員食堂に対する割引制度が該当する。
 D社従業員は、割引価格で社員食堂において食事することができたが、夕勤・夜勤勤務者は、社員食堂を利用できない。彼ら彼女らの勤務時間に、社員食堂は営業していないからである。社員食堂割引に代わる、夜勤・夕勤勤務者向けの食事補助制度がないことが、夜勤・夕勤勤務者が感じる不公平感の温床となっていた。

 2.については、夜勤、夕勤では、ほぼ毎日同じ仕事、同じボリュームの仕事しかしていなかった。対して、日勤では、受注の変動による波動対応を一手に引き受けていた。
 「日勤の俺たちは、仕事が忙しくて残業をしているのに、夕勤、夜勤の奴らは手伝いもしない」、そんな不満が日勤勤務者にたまっていたのだ。

 3.については、前編でご紹介した運送会社B社の状況と基本的に同じケースである。出庫・入庫のボリュームが見えないため、D社の日勤勤務者は、前日にならないと翌日が出勤なのか、それとも休みなのかが分からなかった。
 既に述べたとおり、なぜかD社物流センターで波動対応を引き受けるのは日勤だけであった。波動対応をしない、夜勤・夕勤勤務者は、あらかじめ定められた勤務シフトに従い、出勤と休日を消化していた。

 このような理由により、日勤、夕勤、夜勤それぞれの勤務者が、お互いに不公平を感じていたのだ。

夜勤勤務者が感じていた疎外感

 本来であれば、夜勤のような異なる勤務形態がある企業では、それぞれの勤務形態にあわせた就業規則を用意するべきだ。だがD社のように全社員の数%しかいない夜勤・夕勤勤務者のために、就業規則を見直すことは現実的には難しいこともあるだろう。

 だとすれば、日勤、夕勤、夜勤の勤務者を、例えば四半期単位などでシャッフルすることで、いわば待遇に対する不満を平準化するべきだ。

 別の目的もある。

 D社におけるメンタリティ診断では、違う課題も浮き彫りとなった。

 日勤・夕勤勤務者に比べ、夜勤勤務者では、会社のビジョンやミッションを覚えている人が明らかに少なく、また愛社精神、帰属意識も低かったのだ。

 また、D社における安全ルールを破る者──例えば「構内でヘルメットを被らず作業にあたる」「車路を横断するときに指差確認を行わない」──も、夜勤勤務者の方が多く観察された。さらに、信号無視、一時停止などの、道交法上のルールに対する個人見解を尋ねるメンタリティ診断における設問において、夜勤勤務者では、ルールに対する遵守意識に問題傾向のある人が多かった。

 この原因、背景を探るのは難しい。

 あえて大局的に言えば、原因は疎外感によるモチベーションの低下であろう。従業員5000人を超える大企業において、夜勤勤務者は、たった20人足らずである。他の従業員とは違う仕事、違う時間帯で働いており、他の従業員と顔を合わせることすら少ない。もっと言えば、D社のホワイトワーカーの中には、夜勤勤務者の存在を知らない者すらいる。いわば、環境が生んだ疎外感が、彼ら彼女らの意識、行動などに悪影響を与えた可能性は高い。

 あるインフラ系システム保守を請け負う会社では、夜勤勤務者が勤務中、常習的に飲酒していることが問題になった。

 こういったモラルの低下を避けるためにも、勤務シフトの異なる就業形態が存在する会社は、定期的に人員をシャッフルすることをお勧めする。

 ただし、勤務シフトをシャッフルすれば、手間は増える。勤務形態や業務内容によっても異なるが、定期的に勤務シフトの見直しを行うとなれば、数日から場合によっては1ヶ月近い工数が増えたという話も耳にする。

勤務シフト立案を難しくする「強い制約」「弱い制約」の存在

 これまで述べてきたとおり、勤務シフトへの不満は、仕事の質やモチベーション、愛社精神などに影響を与える。だが、皆が満足できる勤務シフトを組むことは、なかなか難しい。勤務シフトを難しくするのは、「強い制約」と「弱い制約」の存在である。

  • 強い制約
    • 出勤可能日(休日希望日)
    • 資格(フォークリフト、玉掛けなど)
    • 配送先への出禁(トラックドライバーの場合)
  • 弱い制約
    • 緩やかな勤務希望(「できれば土曜日は休みたい」など)
    • 出勤メンバー同士の相性

 例えば、「もし人数が足りないのであれば、土曜日のシフトに入りますよ」という人がいたとする。その人は、好意でこのような申し出をしてくれているわけである。ところが、勤務シフト立案担当者の配慮不足により、毎週、この人は土曜日に出勤させられてしまったとしよう。

 「好意で申し出たのが裏目に出たか…」、やがてこの人の中にも不平不満、勤務シフト立案担当者に対する不信感などが芽生え始めるだろう。

 強い制約とは、絶対に守らなければならない制約を指す。
 対して弱い制約とは、多用しすぎることで当人のモチベーション低下など、メンタリティに悪影響をもたらす制約を指す。

 皆が満足できる勤務シフトを組むことは大切である。だが、結果として業務に支障がでるような勤務シフトは本末転倒だ。だからこそ、勤務シフトを組む上では、強い制約は満たしつつ、弱い制約をほどよく適当な塩梅で満たしてあげることが求められる。

強い制約、弱い制約を満たす勤務シフトを計画立案できる構造計画研究所

 ここからは構造計画研究所の勤務シフトソリューションの話をしよう。

 構造計画研究所の強みとは、パッケージシステムではなく、「セミパッケージ+カスタマイズ」を提供している点にある。

 構造計画研究所には、社会課題の解決に貢献するさまざまなエンジンがある。このエンジンをコアに、お客さまの課題解決のためにカスタムオーダーしたソリューションを提供するビジネスを称して、「セミパッケージ+カスタマイズ」と呼んでいる。

 エンジンがいかなるものを指すのかは、別記事に詳しい。ぜひ参考にしていただければ幸いだ。

“構造計画研究所の言う「エンジン」とは?”

 適切な勤務シフトを組み上げるためには、まず作業予定が見えていて、必要な人員数が算出できていることが前提となる。そのためには、生産計画、配車計画、WMS(Warehouse Management System / 倉庫管理システム)などと連携し、より精度高く必要人員数を算出できなければならない。
 構造計画研究所では、これまでも勤務シフトソリューションを他システムと連携してきた実績を持つ。さらに言えば、本稿でテーマとした物流以外の生産、販売などの分野でも、勤務シフトソリューションを導入してきた実績があることは、課題を抱える企業にとっては心強いだろう。

 弱い制約に対する構造計画研究所のアプローチ手法をざっくりとご紹介しよう。かなめは、弱い制約に対し、パラメーター(便宜上、不満ポイントと呼ぶ)を与え、弱い制約に負担を掛けすぎない方法を数理的に実現したことにある。
 例えば「土曜日はできれば休みたい」を5ポイント、「Aさんと一緒には働きたくない」を8ポイントと設定したとする。「強い制約」を満たした後で、「弱い制約」の不満ポイントが、常に10ポイント以下で収まるように勤務シフトを算出するのだ。

 肝となるのは、この不満ポイントのチューニングである。
 それぞれ抱える弱い制約のすべてを、過度に高い不満ポイントに設定にしてしまうと勤務シフト立案そのものが難しくなる。かといって、不満ポイント設定値を低くしすぎてしまうと、従業員の不満がたまる。
 さらに言えば、50名の職場と、100名の職場では弱い制約や不満ポイントのチューニングのあり方も変わってくる。

 構造計画研究所では、これまでの経験と実績で積み上げた知見をもとに、あなたの職場に最適な勤務シフトソリューションを提供可能なのだ。

「薬屋ではなく医者である」──勤務シフトへの課題に提供できる価値

 構造計画研究所は、自身のことを「薬屋ではなく医者である」と説明する。
 薬とは、パッケージソリューションの比喩である。

 対して、医者とは、保有する薬にこだわることなく、患者の病気を治そうとする姿勢を指す。

 勤務シフトに対する課題解決は難しい。そもそも、課題の根源が、勤務シフト以外に存在するケースもあるからだ。
 ある物流企業に対しては、勤務シフトソリューションの導入だけを行うのではなく、仕事の平準化まで含めて提案し、課題解決に貢献した事例もあったという。

 構造計画研究所は、与えられた課題だけを対象に近視眼的アプローチを行うのではなく、医者同様、病巣を突き詰め、本質的な課題解決を行う。さすがに、就業規則の見直しは構造計画研究所の持ち分ではないが、生産計画、配車計画、WMSなどとの連携を含め、より広い視点からあなたの会社の抱える課題解決に貢献できるのは、「薬屋ではなく医者である」と自負する構造計画研究所ならではだろう。

 シフト管理は、法令遵守という法律的な側面だけではなく、従業員(正社員だけではなく、パート・アルバイト、もしくは派遣などの非正規雇用者も含む)のメンタリティや、仕事の質にも関わる。
 人手不足の今、勤務シフトへの配慮が足りず、必要な人員を集められないといった愚は避けたい。そもそも、不満を抱えた従業員が大勢いる会社が、良い仕事をできるはずもない。

 勤務シフトに対し、悩みを抱えている会社は、ぜひ構造計画研究所に相談して欲しい。