動態管理データは宝の山、その発掘方法を考える

動態管理データは宝の山、その発掘方法を考える

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

 結論から言えば、トラックが実際に配送を行った際に得られる運行軌跡(動態管理データ)は、宝の山である。

 運行軌跡からは、トラックドライバーの性格上、健康上の課題が見えてくる。

 配車計画の課題はもちろん、配送先の課題や、荷役上の課題、もっと言えばサプライチェーン全体に関わるような課題すら見えることがあるのだ。

 現在、市井の多くのデジタコやドラレコには、GPS機能が搭載され、動態管理を実現している。むしろ現在、街を走るトラックにおいて、GPS機器を一切搭載していないトラックなどあるのだろうか?

 にも関わらず、動態管理によって得られた動態管理データを活用している運送会社、荷主企業はまだ限られている。

 筆者の経験も踏まえ、動態管理データを適切に活用するヒントを、運送会社、荷主企業双方の立場から考えていこう。

動態管理データが明らかにした、ドライバーの問題行動とその原因

 筆者が運送会社に勤めていた頃、人身事故こそ起こさなかったものの、車両物損事故、商品事故、遅配などを頻繁に起こすトラックドライバーがいた。

 彼は、トラックドライバー初体験で入社してきた。もともと営業マンだった彼は、人当たりもよく、物覚えも良いことから、導入研修を担当した先輩ドライバーたちからの評価は高かった。ところが、独り立ちした途端、事故を立て続けに起こしたのだ。

 心配した先輩ドライバーらの助言も、何ら功を奏さない。先輩ドライバーらもお手上げだった。

 筆者は、トラックに搭載していた動態管理システムから、彼の動態管理データをチェックしてみた。

  1. 降りるべき高速ICを通り過ぎることがある。
  2. 国道などの幹線道路で、無理やりUターンを行い、強引に配送先に向かうことがある。
  3. 配送先から指定されているアプローチルート(※住宅街を避け、遠回りすることを指定されたルートなど)を守っていないことがある。

 ちなみに、会社ではすべてのトラックにカーナビを設置していた。3.はともかく、1.と2.はカーナビに従えば、起こり得ないミスである。

 彼が入社して約半年分、筆者は彼の運行軌跡をすべてチェックし、問題行動をピックアップしてから、彼と面談を行った。すると、ようやく問題行動の原因が判明したのだ。

 もともと、彼は運転中には眠くなりやすい体質だったそうだ。その上、トラックドライバーの朝は早い。自ずと、運転中は常に襲い来る眠気との戦いとなり、その代償として、カーナビのナビゲーションを聞き逃したり、荷役中の不注意により商品事故を多発させていたのだ。

 慢性的な睡眠不足と、それに起因する注意力散漫。彼自身も、「これではマズイ!」とは思っていた。思っていたが、それを会社に報告、相談すれば、クビになると考え、相談できなかったという。

 動態管理データをきちんと管理し、ドライバー一人ひとりの運行軌跡を分析すれば、本エピソードのようにドライバーの問題行動を把握し、原因究明、解決につなげることができることがある。事故対策、安全対策に熱心な運送会社所長や運行管理者の中には、ドライバーたちの動態管理データを確認している人も少なくない。

 だが、これは手間が掛かる。

 筆者の経験上、一人のドライバーの、一日の運行軌跡をきちんと確認しようとすれば、最低15分は必要だ。もしドライバーが20名いたら5時間掛かることになる。

 安全が絶対正義である運送会社にとって、動態管理データはとても有用だ。

 だが、日々業務に忙殺される運行管理者らが、動態管理データをチェックし続けるのは、現実的にはとても難しい。

動態管理データで、協力会社の運行を把握

 ある荷主におけるエピソードも紹介しよう。

 同社は、(詳細は割愛するが)ある一次産業の収穫物を専門に取り扱う商社である。自然の恵みを取り扱う同社の悩みは、予定通りに商品が入荷するとは限らないことだった。

 自然は気まぐれだ。10tしか入荷しない日もあれば、50t入荷する日もある。提携する運送会社各社のトラック台数は自ずと限られているので、大量入荷があった日には、トラックを何往復も運行して出荷することとなる。

 同社の悩みは、運行回数が運送会社からの自己申告に頼っていることだった。もちろん入荷量から、ある程度の運行回数を予測することはできる。だが運送会社から「荷姿が悪かったので、1運行では積みきれず、2運行になりました」と言われれば、それを確認するすべを、同社は持ち合わせていなかったのだ。

 そこで、同社は運送会社に対し、スマートフォンを貸与、運行中持参してもらうことにした。スマートフォンは常にGPSがオンになっており、動態管理データをリアルタイムにサーバに蓄積していく。これで記録された動態管理データをもとに、運行回数をカウントできるようになった。

 同社では、動態管理データの活用をもう一歩進めることにした。

 得られた動態管理データを解析し、請求書付帯の運行明細を自動生成するようにしたのだ。加えて、高速道路のインターチェンジやジャンクションの通過ログも解析し、高速料金も自動算出できるようにした。

 同社では、それまで運送会社の自己申告に頼っていた運行実績について、動態管理データによるエビデンスを得られるようにしたばかりでなく、請求明細の自動生成による請求業務の省力化も実現したのだ。

予実管理を実現する動態管理データ

 荷主自らが配車計画を担う必要性については、「荷主が、自ら配車業務の遂行を願う理由【「運送会社に配車を任せてはいられない!?」、荷主ための配車システムとは?(前編)】」にて、既に論じた。

 だがもし、荷主が立てた配車計画に対し、運送会社が不満を感じていたとしたら、問題である。

 運送会社が、(荷主に限らず、親請けなども含めて)他社の立案した配車計画に不満を感じるとしたら、最たるものは予定と実績の乖離であろう。

 「このルートだと、時間通りに回れないんだよ」──どんな優れた配車システムを用いたとしても完璧な配車計画などありえない。まして、配車計画を守ろうとした結果、連続運転等のコンプライアンスに抵触するようなことがあれば大問題である。

 「配車計画では、A→B→Cと回るように指示されているけど。実際には、C→B→Aと回ったほうが効率的なんだよな」──これも問題である。当たり前だが、配送を行うのは感情を持った人間である。些細かもしれないが、こういった不満が積もり積もれば、それは荷主への不信感に成長してしまう。

 予定と実績が乖離するのは当たり前ではある。

 本来、こういった不満は、実際の運送を担うドライバーからフィードバックされることが望ましいが、運送会社側からすれば「お客さまである荷主には言いにくい」というケースも考えられる。

 だからこそ、予定と実績の乖離を把握するために、動態管理データを活用することが必要となるのだ。

リアルタイム動態管理が、顧客満足度を向上させる

 動態管理データは、荷主にとってのお客さま、すなわち集荷先や配送先に対する顧客満足度向上にもつながる。

 例えば、待機時間である。

 国土交通省の調査によれば、1運行あたりの平均荷待ち時間は1時間45分であり、2時間を超えるケースも3割近くあるという。だが、荷待ち時間は必ずしも集荷先、配送先の怠慢によって発生するものではない。集荷先・配送先となる工場や物流センター、もしくは店舗などは、それぞれ別の通常業務を遂行している。集荷・配送に来るトラックの荷待ち時間削減のために、通常業務に負担を掛けるにしても、限度はあるのだ。

 「せめて、到着前に連絡の一つでもくれたら…」──そうすれば、トラック到着に合わせて受け入れの準備を進め、荷待ち時間の削減を図ることも可能だ。

 だが一方で、ドライバーにとって、到着前の連絡を入れるのは手間であり、負担となる。

 荷主の立場からすれば、ドライバーに負担を強いてまで連絡させるのは気が引ける。

 かと言って、お客さまである集荷先・配送先の「到着前連絡が欲しい」という希望を却下するのも心苦しい。

 そこで解決策となるのが、リアルタイムな動態管理による、集荷先・配送先への自動連絡である。

 トラックの動態管理データをリアルタイムに把握し、「配送先から半径2km以内に到着した時点」「集荷先の最寄り高速ICを通過した時点」などのタイミングで、システムから自動的にメール、チャット、もしくは自動音声による架電などを行えば、ドライバーに負担を強いることなく、集荷先・配送先であるお客さまの顧客満足度向上も図ることができるのだ。

 動態管理データは宝の山である──その根拠を示すために、筆者自身が関わってきた動態管理データの活用エピソードを三つご紹介した。

 勘違いしないでほしいのは、本当の価値は動態管理データそのものではなく、データを活用したその先にあることだ。

 動態管理データそのものは、GPS機能によって取得された緯度と経度が延々と記録された退屈な文字列の集合体である。

 その動態管理データから、価値ある宝の山を発掘できるかどうかは、利用者の課題意識や、改善への意欲、アイデア次第なのである。

 ドライバーの安全対策や、運行管理業務の軽減など、さまざまな課題を抱えているケースも少なくないだろう。そういった際には、運行管理データを活用し、その課題解決に結びつけることができないかどうか、ぜひ知恵を絞ってほしい。